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落乱愛な二次創作blogサイト。 必ず「挨拶」からお読みくださいませ…

   
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猫の帰る場所・1
目が覚めたとき。喜八郎の目の前には80歳はとうに越えた爺さんが座っていた。
熱がまだ下がり切らず、霞む瞳で誰であるかを確認するが、こんな皺くちゃな爺さんに記憶はなかった。


「‥誰?」


爺さんの右の眉がピクリと上がり、皺に紛れて見えなかった小さな瞳が喜八郎を捕らえた。一瞬、老人とは思えない鋭い眼光に胸が射られドキリと跳ねる。しかしすぐにその目は柔らかな光を宿し、再び皺に隠れた。

「綾部、喜八郎」

顔と同じ、嗄れた声。
なんで名前を知ってるんだろう、と喜八郎は首を傾げつつゆっくりと瞬きをする。未だこの爺さんを理解し得ないでいると、追い討ちのように続く言葉に耳を疑った。


「…忍術学園に入学しなさい」


声が出ず、瞬きを2回する。
誰とも判らぬ爺さんに、恐らく看病されている今の状況すら解らない。

しかし、その言葉と声の中に温かさとほんの僅かな哀れみを感じて

ああ。また捨てられたのだな、と頭の片隅で理解した。


*****


貴方には想像できるでしょうか。3年前の彼らを。


ぱんだまの中で、3年前ほど重要でいとおしく、輝かしい年はありません。

3年前
6年は3年生
5年は2年生
そして4年は1年生…


これから始まる【猫の帰る場所】は、皆さんが想像したこともないだろう【土井+きり+綾部】
ぱんだまでは土井ファミリーと呼びます。


22歳の土井半助が、教員補佐として初めて与えられた課題。



それは【綾部(猫)と暮らすこと】



さぁ、数奇な世界の幕開けです。


貴方は この世界を愛せますか?

ただ、心地よかった。
日当たりもいいし。草や土の匂いも嫌いじゃない。
そこに居たら いつの間にか隣に居ただけ。

同じように座って
寝転がって
寝て

日向ぼっこした後はやたらふわふわで、触り心地もよかったし。


絡み付く尻尾も気持ちよかった





ただ それだけ


*****


まったく、怒濤の毎日だ。

半助は大きく吸った空気をこれでもかと言わんばかりに吐き出した。

忍術学園の教育実習生としての試験(試練?)を合格し、教員補佐として雇って貰えることになったは良いが、息つく暇がないとは正ににこの事。まさか実技・教科共に全ての先生方の補佐とは思いもしなかった。

担任とは言え、全学年・全組に居るわけではない教師たち。
教壇に立ったと思えば合戦場の実技、町に潜入したと思えば生徒がやれ迷子になった、やれ問題起こした、巻き込まれたとてんてこ舞い。
しかもあの大川平次渦正。天才忍者と憧れたのは始めの三日。気まぐれに学園全体が振り回されて毎日がお祭り騒ぎと来たものだ。

先が思いやられる…

再び声にならない思いを吐き出すと、ふと第二グラウンドの桜を見やった。
視界の中に、不自然な土の山が入り、すぐ横には桜の風景似つかわしくない穴が見える。

やっと見つけた…

今一度、軽く息をついて歩み寄る。


「綾部喜八郎」


一体何時から掘り進めているのか。咲き終わりが近いと見えて、風が吹くたびに舞い落ちた花びらで穴の中は真っ白だった。
その白い絨毯の上に浮かび上がる、土にまみれた銀糸の髪と井桁の浅黄色。上衣は何処へやったやら。黒の肌着のまま、色白い肩まで土を被っている生徒が見える。

山田先生が手の掛かる学年が多くて困る、と洩らしていたことを思い出した。三年のことだけだと思っていたが、どうやら違うらしい。


「綾部、聞こえるか?」


名前を呼んでもなお、穴の中の生徒は動かす手を休める気配がない。


…まったく…


半助は三度目の溜め息を惜しみながら吐き切った。
ほんの数刻前、学園長に呼び出された用向きを振り返る。



『夏休み中、半助には生徒を一人預けたい。名は、綾部喜八郎。1年い組じゃ。』



やっと先日都に居を構えられたばかり。独り身とは言え、右も左も要領もわからない自分にはまだ…と言うか荷が重い。

「…学園長も、人使いが荒すぎる…」

聞けば、その生徒は未だ同級生の名前はおろか、教師の名すら覚えず、授業もまともに受けに来ない問題児。

なるほど。眼下に居る生徒の様子を見れば頷ける。


…それにしても…

あの生徒はこの穴を、何の為に掘っているのか。一人用の蛸壺にしては深すぎる。
穴の中が桜の花びらで埋め尽くされるほどの時間をかけて。最下級生、ましてや入学してまだ間もない、幼い力で。よくここまでの蛸壺を掘れたものだ、と素直に感心すらしてしまう。

しかし、穴の深さは約十尺といったところ。今なお黙々と掘り進めている様子は、あまりに真剣で。声なき声を叫び続けているように思えた。


「…綾部、もういい加減止め‥」


今の半助には、あの生徒が穴を掘り続ける理由がとんと思い浮かばなかった。
流石に疲れているだろう。
そんな安易な考えで選んだ言葉を、半助は静か飲み込んだ。

視界に僅かに入った盛り土の横。
穴の中と同じく花びらに覆われ、浅黄色の上衣に載せられてソレが答えだと直感する。


「…」


そんな半助のことなど気にも留めず。先ほどと、何一つ変わらないまま。

その生徒は、ただただ腕を動かし続けていた。





…つづく

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